アレルゲンを極力使用しない「なかよし給食」についてです。
「なかよし給食」とはどんなものか、私が実際に経験したことからメリット・デメリットをご紹介します。初めて「なかよし給食」という言葉を聞いた方、実施を悩んでいる方の参考になれば嬉しいです。
「なかよし給食」とは
「なかよし給食」とは「在籍しているアレルギー児のアレルゲンを使用せず献立を立てる」など、園内の皆が同じものを食べる事ができるという給食の事をいいます。(同じものを食べていても食器はアレルギー用を使用する事が多いです)
その為、安心感を得ることはできると思います。
(異年齢や別のクラスと一緒に食べる、交流を目的とした給食も「なかよし給食」と呼ぶこともあります。今回は食物アレルギー関連の「なかよし給食」に関してのご紹介です。)
入園・進級時期である4月には、子どもは慣れない環境におかれます。そのため、保育士はいつも以上の緊張感を持つことがあります。こういった「人の出入りのある・環境変化のある時期」だけでなく「職員の少ない延長保育の時間帯や土曜日」などは、普段「なかよし給食」を実施していなくても、なるべくアレルゲンを使用しない配慮が大切です。
「なかよし給食」のメリット
メリット1・誤食の防止
メリットの1つ目は、誤食の防止です。
アレルギー児が誤ってアレルゲンを摂取しないようにする事ができます。
誤食の多くは、配膳時に起こる事が多いという下記のような調査結果があります。
以下資料:「保育所入所児童のアレルギー疾患罹患状況と保育所におけるアレルギー対策に関する実態調査/平成28年3月 慈恵会医科大学(http://www.jikei.ac.jp/univ/pdf/report.pdf)」
また、誤食は盛付や配膳のミス以外でも起こります。小さいお子さんの場合は、苦手なものを見つけると隣の皿に入れたりもします。さらに、小さいお子さんはどれが自分のものかの理解ができていません。他の子のものであっても「好きなもの」には手を伸ばす事もあります。
おもちゃの取り合いなどもそうですよね。自分の気になるものに手を伸ばすのは、よくある行動です。
保育園では、基本的に食物アレルギーの子は他の子と席を離す事になっています。手を伸ばしてアレルゲンに触れてしまう事はないはずです。ですが、アレルゲンが教室内に「ない」状態であればさらに心配の元が減ります。
メリット2・安心感
アレルゲン食材が園に存在しないという事は、保護者・給食室・保育士など関わる大人の安心感につながります。
この「大人が安心できる環境」は気持ちの余裕や落ち着きに繋がります。調理面でも代替食品の調理や発注がなくなり、間違いを防ぎやすくなります。
保育園の給食室は狭いことも多いです。その中で、通常献立、離乳食献立、アレルギー対応をすることはリスクが高いです。また、クラスで保育士は常に安全に気を配っていますが、子どもは思いもよらない行動をとります。食事中は、子どもが何かをこぼしたり、立ち上がったり、お皿を落としたりは日常茶飯事です。思いもよらないリスクが発生したりします。
「なかよし給食」は保育士や保護者、関係者の安心できる環境を作る手助けになります。
「なかよし給食」は安全面で言えば、非常に良い方法です。
メリット3・「違い」が無い
アレルギー児の「他の子と違う」という気持ち、他の子の「あの子だけ違うもの食べてズルい」という気持ち。これを持ってしまう事を防げます。
「アレルギーだから○○を食べる事ができない」という事を理解できるのは何歳からでしょうか。
2・3歳くらいまでであれば違いに気づかないかも知れません。しかしそれ以降になると人との違いに気付き、大人に訴えてくることがでてきます。しかし、それを説明しても子どもはまだ理解できない場合もおいでしょう。
「皆が同じ」という事が絶対良いとは限りません。ですが、違うものを食べている児には注目が集まる事もあるのは事実です。ここから学ぶこともありますが・・・。
メリット4・事務作業の軽減
アレルギー献立表の作成時間など、事務作業の軽減ができます。
栄養士には様々な事務作業があります。中でもアレルギー献立表の作成は特に気をつかうと思います。クラスやお名前に間違いが無いか、アレルゲンには赤色をつけて代替食品を入力する・・・などなど。それをさらにしっかり確認していきます。これは非常に気を遣うので、代替食品が少なく済むことは作業時間にも直結します。
「なかよし給食」のデメリット
デメリット1・栄養素の偏り
「なかよし給食」は、在園児のアレルゲンを使用しないという考えがベースです。その為、使える食材に偏りができます。食材が偏ると栄養素の偏りも懸念されます。特に乳使用禁止となった際にはカルシウム不足などが課題です。
「乳・乳製品の使用禁止」は栄養価の確保が非常に厳しいです。カルシウム補給の代替品としては小魚、ほうれん草、小松菜、豆腐、ゴマなどが多く用いられると思います。
一方で、魚類は比較的高価です。費用面に問題がある可能性があります。
よくカルシウム源として候補にあがる「煮干し」は苦手な子も多いです。ほうれん草・小松菜などの緑色の野菜は、比較的苦手な子が多いです。豆腐・ゴマは色々な料理に使用しやすいです。ですが、どの食材も牛乳のように毎日提供するイメージではありません。
また、上記のようなカルシウム対策は、大豆アレルギー、ゴマアレルギーのお子さんが在籍していればできませんので、さらにカルシウムの確保が難しくなります。そこへ魚類にアレルギーがあるお子さんが入園したら・・・とキリがないのが実際の所です。
対応するアレルゲンが多い場合には「この食材は使用しない、この食材は使用する」という線引きが必要になってくる可能性も出てきます。
例えば特定原材料8大アレルゲンは使わず、あとの食材は使うなど
どこかで線引きをすることも検討してください。
デメリット2・使用食材・レパートリーの減少
使用できる食材数が減ると、レパートリーの確保も厳しくなってきます。
調理しやすくしたり食感を維持するために、乳や卵の代替として豆腐を調理に使う事が多くなりがちです。ですが、豆腐が使用できない場合も考えられます。
現在は色々な工夫レシピを考えて発表してくれている方が多く、ありがたいと感じています。しかしそういった工夫レシピは大量調理では実施が難しい場合もあります。また、工夫レシピは珍しい食材を使う事も多いです。
「はじめて食べる食材がないように」というアレルギー対策が保育園にはあります。そうすると、珍しい食材を自宅で試してもらわないといけません。そうなると工夫レシピは使いにくいのが実情です。
そのため、目新しいメニューの実施が難しくなってきます。
デメリット3・アレルゲンが「ない」ことに慣れてしまう
アレルゲンがその場に「ない」事が普通になってしまいます。そういった現状で「アレルギー対応をしよう」と変更があったとき、関わる人は急に不安になったりします。
給食に使用する商材は、成分が予告なく変わることがあります。今まで入っていなかった「乳成分」が急に追加された・・・ということもありえます。「ない」事が普通になっていると、その発見が難しい可能性が高いです。
デメリット4・アレルギー児自身に誤解させてしまう恐れがある
保育園で皆と同じ物を食べているとアレルギー児自身に「皆と同じものを食べる事ができる」と誤解させてしまう懸念もあります。
保育園で食べるものは皆と一緒で良いけれど、他では気を付けるよう教える必要があります。こちらは保護者との共有が大事だと思います。
普段一緒に生活していない祖父とアレルギー児が買い物に行った事例です。「ポテトサラダ、よく食べてるよ」という児の言葉を聞いてポテトサラダを購入。実際にポテトサラダを喫食したらアレルギー反応が出たという話があります。
園では卵未使用のマヨネーズドレッシングを使用する事が多いです。マヨネーズドレッシングはスーパーに並んでいますから、ご家庭でも利用していたかもしれません。しかし、祖父はその事を知りませんでした。子どもが「いつも食べているよ」と言えば、買って食べてしまう可能性があります。情報の共有は非常に大事です。
デメリット5・食材費が高くなりがち
アレルギー用商材はどうしても高価になりがちです。メーカーさんが頑張ってくれているので、以前より手に入れやすくなっています。ですが、多少費用が高くつくという覚悟が必要です。
「なかよし給食」は、安全というメリットが非常に大きいです。
しかし、栄養価が気になる栄養士としては悩みます。
給食の安全のメインをどこに置くのか
給食には目指したい目標・守りたい項目が沢山あります。全て網羅できるのが望ましいですが、重きを置く部分を選ばないといけない時もあります。それをどう考えるのかは園次第の部分があります。
給食で使用する食材の安全に関して
○ 子どもが初めて食べる食品は、家庭で安全に食べられることを確認してから、保育
https://www.mhlw.go.jp/content/000511242.pdf
所での提供を行うことが重要です。
厚生労働省の「保育所における食物アレルギー対応ガイドライン」に上記のような文があります。
このため、保育園では「食材チェック表」で食べたことのある食材を保護者にチェックしてもらいます。「給食で使用する食材」の一覧を作成して配布し「一覧にある食材を使用した食事の提供」に同意した事の確認のために、同意書に署名してもらうなどの対応をとることもあります。
保護者とのやりとり
保育園に通っているということは、保護者は共働きやシングルの方が多いです。家に帰れば子どもの相手をしながら日常の炊事洗濯でいそがしいでしょう。そこでさらに「この食材、食べたことありますか?」と言われても・・・という部分はあるのではないかと思います。
お料理が苦手であれば、なおのこと。どうやって試せばいいのか悩んでしまう事も多いです。
アレルギーの代替レシピには、普段あまり使用しない食品が載っている事もしばしばあります。見慣れない食材を家で試すことは、ハードルが高いと保護者に感じさせるかもしれません。保護者の負担を増やさずに、どう提供できるかは非常に難しい部分です。
栄養価の問題
昼食に比べて、皿数の少なくなる「おやつ」にはアレルゲンを使用するなどの方法もあります。
そのように決めれば、乳・乳製品をおやつには使用し、カルシウム確保を目指す事もできるようになります。しかし、「皆と一緒」は崩れてしまいます。
保育園給食では栄養価も重要ですが、学校給食とは少し種類の違った安心安全も求められます。
「なかよし給食」にするもしないも栄養士の立場だけでなく、保育士の動き・設備なども考慮した「園としてどう考えるか」が大切だと思います。
「なかよし給食」は実施した方が良いのか?
「なかよし給食」とはどんなものか、私が実際に経験して感じた事をご紹介しました。
「なかよし給食」は安全・安心感を得ることができる方法といえます。ですが栄養面・費用面から考えると「なかよし給食」は難しい選択だと思います。
しかし、以下のような場合には「なかよし給食」の考え方を導入した方が良い場合もあります。
- 給食室が狭く設備的な問題でアレルギー対応食の提供に不安がある
- 人的余裕がなく安全な給食提供に不安がある
- アレルギー対応の対象者人数が多い
- 対応するアレルゲンの種類が多い・複雑
- 喫食の際に教室が狭く、児童同志の距離を充分に離せない
これらは安全な給食が提供できる状態とは言いにくいので、何らかの対応が必要になると思います。その際の一つの候補が「なかよし給食」だと考えています。
運営年数の長い園だと「今まで問題なかったから、そんな事をする必要はない」など言われることもあるかもしれません。ですが、今の現状に合わせて改めて見直す事も大切だと感じます。
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