アレルギー対応食を提供するには
保育園・小学校の給食などのアレルギー対応食は「完全除去」と言われています。これはどういうことなのか?どうしてなのか?どうやってやるのか?をみていきます。
保育園や学校でアレルギー対応食を提供するには医師が記載した「保育所におけるアレルギー疾患生活管理指導表」や「学校生活管理指導表」(以下「指導表」に略)の提出が必要です。
保護者の訴えだけの対応・提供はしない方針となっています。
アレルギー対応食は「指導表」にのっとって、提供をすることが基本です。
アレルギー対応食における「完全除去」とは?
アレルギー対応食における「完全除去」とは、その食材を全く提供しないと言うことです。
「保育所におけるアレルギー対応ガイドライン」p.9には以下のような基本原則が掲載されています。
食物アレルギー対応においては安全・安心の確保を優先する
https://www.jpa-web.org/dcms_media/other/%EF%BC%88%E5%88%A5%E6%B7%BB%EF%BC%92%EF%BC%89%E4%BF%9D%E8%82%B2%E6%89%80%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC%E5%AF%BE%E5%BF%9C%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3%EF%BC%882019%E6%94%B9%E8%A8%82%E7%89%88%EF%BC%89.pdf
・完全除去対応(提供するか、しないか)
・家庭で食べたことのない食物は、基本的に保育所では提供しない
「学校給食における食物アレルギー対応指針」p.5の大原則には以下のように記載されています。
安全性確保のため、原因食物の完全除去対応(提供する
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2015/03/26/1355518_1.pdf
かしないか)を原則とする。
保育園・学校、どちらも国からの基本として「完全除去」をするよう求められています。
*学校用資料の方が見やすく分かりやすいので、保育園栄養士も、こちらを参考にすると良いと思います。*
例えば「卵アレルギー」の「完全除去」とはどういうことか?
「オムレツ」「親子丼」など、卵を目に見えるかたちで使用する料理はもちろんのこと「ロールパン」「クッキー」などで、卵を使用している物は提供しません。「さつま揚げ」「ハム」などの練り製品や加工品なども、卵を使用している物は提供しません。「マヨネーズ」などの調味加工品も同様です。
商品裏面の原材料表示に「卵」(「玉子」「鶏卵」「エッグ」)の表示場合には全く使用しない。これが「卵アレルギー」の場合の「完全除去」です。
(卵殻カルシウムは必要があれば対応します)
例えば「小麦アレルギー」の「完全除去」とは?
「卵アレルギー」同様、原材料表示に「小麦」のある商品は使いません。
小麦の場合「醤油」「酢」「麦茶」は原材料表示に「小麦」と記載があっても使用できることが多いです。もし使用できない場合には「指導表」の「C.除去食品においてより厳し除去が必要なもの」欄に記載されます。
こちらを確認して、対応します。
成分表示の「一括表示」
ある食材の原材料表示のなかの一つに、「醤油(大豆、小麦含む)、」という表示がある場合。医師からの指示が無ければ「大豆アレルギー」の人も「小麦アレルギー」の人も提供する事ができます。
一方で、原材料表示の最後に「(一部に大豆・小麦を含む)」とあった場合。他の原材料から察して「醤油」に由来するだろうを推測できても、提供しない方が賢明です。あくまで推測だからです。
メーカーに確認し、醤油由来の表記であることがわかれば、提供しても大丈夫です。念のため、できれば書面をいただき、保管することを推奨します。電話であれば、いつ確認したかの日時、担当さんの名前含めメモを残すと良いと思います。
メーカーによっては「アレルギーの方は、控えていただいた方が・・・」と名言を避ける場合があります。メーカーは、もし事故が起こったら困るからでしょう。(私の体験談です)
どうして「完全除去」にしなくてはいけないのか
対象者それぞれの段階に対応できない
アレルギー症状がでる時の、アレルゲンの状態や量は人によって違います。
アレルゲンに触れただけでもアレルギー症状が出る人もいれば、体調が良ければ食べても症状が出ない人もいます。
卵アレルギーの場合だと、加熱がキーワードになります。20分以上茹でた卵なら大丈夫とか、半熟でなければ大丈夫など差が激しいです。
*アレルゲンとは、アレルギーの原因物質です。卵アレルギーなら「卵」がアレルゲンです。
大量調理の加熱ムラ
大量調理は全体量が多いため、しっかり火を通したつもりでも加熱ムラが出来てしまうことがあります。
一般的に十分な加熱状態でも、アレルギー食対象者には加熱不十分で提供してしまう可能性があります。これは卵アレルギーでは大問題になります。
家の食事との兼ね合い
「食べる練習」ということで、医師の指導のもと家でアレルゲンを一定量を食べる「経口免疫療法」というものがあります。ここで決められた量以上を食べてしまうとアレルギー症状が出る可能性があります。
食事量を把握できていないと、保育園(学校)と家庭で上限を超してしまう可能性もあります。
アレルギー症状は体調によっても左右される
体調が悪いと、普段よりアレルギー症状が出やすくなります。また、環境によっても変わると言われています。保育所・学校など入園・入学時などは特に環境が変わります。
子どもは自分の体調を上手く説明する事が難しいです。
朝は体調が良くても、時間経過で体調が悪くなることは大人にだってあります。熱が出ていても、元気そうに見えることだってあります。集団にいる場合、食事のタイミングで体調が良いかということを把握するのは難しい事だと思います。
女性の場合、生理で体調が落ちる場合にはアレルゲンは食べないようにする事もあります。
今まで対応できていたのに・・・?
「部分除去」とは?
「完全除去」に対して「部分除去」という方法があります。
アレルギーを起こさず、食べる事の出来る状態にした食品を提供することを「部分除去」と言います。
例えば、卵アレルギーであれば「半熟でなければ食べる事ができる」児童に、「しっかり火を通した卵を提供する」という事です。
基本的に家庭ではこのような対応をします。また、学校等でも「部分除去」をしてきた過去もあります。
ですが、上記に挙げてきた危険を回避するために、保育園や学校などでは、部分除去の対応はしないようになってきています。これは、意地悪とか、やる気がないとかそういった理由ではなく、食物アレルギー児の健康を守るために行っています。
今まで個別対応できていたのだから「完全除去」は必要ない・・・??
保護者からだけでなく、『今まで個別対応できていたのだから「完全除去」は必要ない』という保育や学校現場からの声もあります。
ですが、今まで事故を起こさず、大丈夫だったからと言って、今日・明日・・・絶対に事故は起こらないとは言えません。アレルギー事故に限らずですが、事故を起こそうとして起こす人は、ほぼいないはずです。
事故が起きれば、アレルギー児だけでなく、ご家族や提供した現場も辛い思いをする事になります。
一方で
ただし、調理場の施設・設備や、スタッフの技術・知識などのスキルが十分にあれば、個別対応できると良い。
https://www.foodallergy.jp/tebiki/school/
という記載もありますので、この内容をきちんと満たしていると総合的に判断できれば、対応することも考慮できます。
食べられないのは可哀想・・・?
間違いが起きてしまった時の方が可哀想です。可哀想ですまない事が起こることを想定して、安全確保をします。
家では食べられるのだから、園(学校)でも出して欲しいという声
「家では食べられるのだから、園(学校)でも出して欲しい」という保護者の声もあります。ですが、「完全除去」は国が専門家の意見を練って推奨していることです。
食べる練習は基本的には家庭で行うというのが現在の考え方です。
給食は1日3回の食事のうちの1回です。大事な1回ではありますが、あと2回の食事で食べれば問題ないでしょう。通常の食習慣で、毎食必ず卵を食べたり小麦を食べたりしていませんよね。
「完全除去」をどうやって、やっていくのか
役所からの情報・入園児の面談
基本的にアレルギーがあるお子さんは、役所への保育園申し込み等でアレルギーの有無を回答する事になっている事が多そうです。その時点でわかっていれば、入る保育園が決まったときには園にも情報が伝えられます。
また、入園前の説明や保育士との面談で、改めてアレルギーの聞き取りを行い、必要があった際には栄養士等が「指導表」や園での対応を簡単に説明することになることが多いと思います。
保育園でのアレルギー対応実績がある場合には、役所を通じて学校に情報が行くことが多いと思います。
保護者に「指導表」を提出してもらう
「指導表」を医師に制作してもらい、保護者に提出して貰います。指導表は最低年1回提出してもらいます。新たな年度になる前に確認して貰うことをオススメします。また、年1回に限らず内容に変更があれば、随時提出してもらいます。
その後「アレルギー対応委員会」で、どのような対応をするか検討します。
*アレルギー対応委員会とは・・・アレルギーを持つ子どもの状況把握や対応の確認などを組織的におこないます。学校であれば、校長・主任・担任・栄養士・調理師・養護教諭など。保育園であれば、園長・主任・保育士・看護師・栄養士・調理師などが参加します。これは主に担任不在・栄養士不在、緊急時などによって対応が変わってしまわないよう組織的に把握・行動するためです。
「指導表」をもとに保護者と面談をする
保護者との面談では、指導表の内容確認、既往歴、症状、園(学校)の給食対応を話します。
席を少し離す、食器の色を変えるなどは、保護者が難色を示すときもあります。ですが「安全確保のため」「役所・厚生労働省(文部科学省)・国の指導」など、ご理解いただくようにお話するしかありません。
また「指導表」の受け取りと、保護者との面談が出来ていない場合には、給食の提供を見送ることを推奨します。お子さんの状況を知らずに食事提供するのは危険な行為だと思います。
食材・現場の見直し
アレルギーをもつ子どもが入園(入学)するとわかった時点で、加工食品の見直しをします。
また、給食室が施設・人員的に対応しきれるかも判断した方が良いです。
特に保育園は狭い給食室で、なんとかやりくりしている場合も多いと思います。除去代替え対応に限界がある際には、元々使用している食材を見直すことも大事だと思います。
マヨネーズは「卵不使用」に全て切り替えたり、ハム・ウィンナー・練り製品も「卵・小麦粉不使用」にするなどの切り替えを行う。ロールパンを使用していたところ、「卵・乳不使用」の食パンに切り替える。バターは「乳不使用」の豆乳マーガリンにする。牛乳でつくっていたものを豆乳で作るなどなど。
除去代替え対応をしないですむように調整することも一つです。
アレルギー専門認定を取っています。
もしかしたら、お問い合わせからご相談にのれることがあるかもしれません。